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関東氷帝・手塚vs跡部戦「決着をつけよう”ぜ”」の消失に関する考察 - 第3回テニスの王子様研究発表会発表内容

 

2019年2月23日に狸穴さん(twitter:@mamianical_info)主催の「第3回テニスの王子様研究発表会」で発表した内容です。

会の概要や発表タイトル一覧はこちら→ 第3回テニスの王子様研究発表会 | Peatix

 

発表者(わたし)はまったく言語の専門でも専攻でもなく、それっぽいことしてるだけのゆるふわ発表資料なのでゆるふわで読んでいただけるとありがたいです。

また、スライド及び記事内で原作の画像を使用しておりますが、出典を明記し引用の範囲内で取り扱っているつもりです。以上、よろしくお願いいたします。

 

▷発表スライド(ざっくり把握したい方はこちらだけでも分かるかと思います)

 

▷研究のきっかけ 

2018年に新作OVAテニスの王子様 BEST GAMES!! 手塚vs跡部」が作成されました。その劇中で、手塚くんの台詞「決着をつけようぜ」が「決着をつけよう」に修正されていることに気がつきました。手塚くんが珍しく好戦的でたいへん好きな台詞でしたので変更されたことを残念に思い、どのような意図でこの修正が行われたのか理由を探ってみることにしました。

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該当のシーン:許斐剛テニスの王子様』18巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、44頁

 

▷仮説

研究を進めるにあたり、最初に2つの仮説を立てました。

 

仮説①:連載当時から現在までの時代の変化に伴い、キャラクターの言葉遣いが変化した。

仮説②:当該の台詞が手塚のキャラクター性にそぐわないと判断された。

 

▷仮説①の検証

テニスの王子様』の連載開始が1999年であることから、OVAが作成された2018年までの年月で世間一般の言葉が移り変わり、創作物上の言葉遣いも変わったのではないかと仮定しました。古い少女漫画でよくあった「だわ」「なのよ」も最近の少女漫画では使われないことが多くなってきたように、「ぜ」もオールドファッションなのかなということです。あるいは、関東氷帝戦はそこそこ初期の試合*1であるため、長く続く連載の中で手塚くんの口調が変化した可能性もあります。

しかし、調査する中で、TV放送*2のアニメシリーズ『テニスの王子様』でも同様の台詞修正*3が行われていると分かりました。その上、この頃のTV放送は超過密スケジュールだったようで、当該のシーンの本誌掲載からTV放送までわずか4カ月足らずしかありませんでした。

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よって、時代の変化もキャラクターの変化も生じていないということになります。

以下、仮説②について掘り下げていきます。

 

▷仮説②の検証

仮説②(手塚のキャラに合わないんじゃないか説)、この研究テーマを選んでから「ぜ」問題についてざっと調べましたが、ファンの意見もおおむねこの説に類似した感じでした。「手塚っぽくないからかな?」ということです。では、具体的にはどこがどう「手塚っぽくない」のでしょうか? それを明確にするために「手塚っぽい話し方」について探っていきたいと思います。手塚らしい話し方を探れば、そこから外れている=手塚らしくない、とできるはずだからです。

しかしその前に、「キャラクターはキャラクターらしい話し方をする」と決めつけていいのでしょうか? 人間は必ずしも一貫した話し方をするとは限らないはずです。

この問題について、本研究では前提として役割語の観点を用います。役割語とは、大阪大学金水敏教授が2003年に提唱した比較的新しい考え方で、ざっくり言うと、「創作物において、話し手のキャラクター性を描写する特定の言葉遣いのこと」*4を指します。 つまり、「ワシの若い頃はのう」と発言しているのは老人、「あら嫌だ、お里が知れてよ」と発言していたらお嬢様なんだなと分かるように、言葉遣いがキャラクターのパーソナリティを構築し想起させる重要な一要素であるということです。

テニスの王子様」ではキャラクターたちはしばしば特徴的な言葉遣いをします。仁王の「プリッ」、柳沢の「だーね」、観月の「んふっ」、丸井の「だろぃ」などです。「テニスの王子様」は役割語的な観点により規定されたキャラクター描写をされていると言えます。

以上のことから、「手塚国光は、手塚国光というキャラクター性を表現する言葉遣いをしているはずである」という前提を元に研究を掘り下げていきます。

 

仮説②の実証のために以下を集計しました。

 

・集計対象:『テニスの王子様』全42巻

・集計項目:①終助詞:ぜ、ぞ、な(非命令)、だろ、かよ、か(疑問)、ね、よ、の(非疑問)、かしら、わ、だ、かな、か(非疑問)、の(疑問) ※方言と敬語は除外

      ②指示表現:命令型、確認型

      ③音変化(例:「うるせえ」「何スか?」)

・調査対象:中学テニス部員 (方言話者は除く) + 桜乃、朋香、杏

・調査人数:100人

 

調査対象や調査方法*5については色々細かくルール決めがあるので気になる人は脚注を読んでください。ルールを用いて絞ったネームドキャラクターを数えるとちょうど100人*6集計した結果、集計項目に1以上の該当があったキャラクターは82人*7です。

集計項目の②と③に関しては結論には直接関係がないのでおまけくらいの要素だと思っていてください。

 

▷▷仮説②の検証:手塚の言葉遣い特徴

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手塚くんの使用する終助詞の内訳です。「だ」がもっとも多く、次が「な」であることが分かるかと思います。問題の「ぜ」に関しては該当の台詞1回のみの登場でした。「ぜ」の使用はイレギュラーであると言えます。

これは余談ですが、手塚くんの口癖である「油断せずに行こう」からも分かる通り、そもそも手塚くんは「行こう」「しよう」のような言い切りの形が多いんですよね(発言数のデータは取ってないので多いというのは集計していてわたしが感じた印象ということになってしまうのですが)。それと、「ね」は一度も使用されておらず、「よ」も使用されたのは4回*8のみです。その4回も全て、命令表現+「よ」の命令形に付随する使用であり、「だよ」のような使われ方はしていません。

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また、指示における命令表現*9の回数が登場人物中もっとも多いというのも特徴でした。これは主人公校に所属し出番が多いこと、部長という立場であることも要因であると思われます。

 

▷▷仮説②の検証:他者との比較

日本語と言えば言葉遣いに男女差が現れやすい言語です。「女性語」「男性語」なんて言うとこのご時世ちょっと引っ掛かりを覚えてしまったりもしますが、周囲の人間の言葉遣いを思い浮かべても、昔ほどではないとは言えやはりまだまだ男女で言葉遣いに違いがあるのではないかと思います。「ぜ」は一般的に男性が使う言語と言われています。所謂「男性語」を「力強い・粗野」、「女性語」を「柔らかい・丁寧」な言葉であるとして、登場キャラクターたちの傾向を比較してみます。ここでの集計項目は以下です。

 

・「男性的」な終助詞:ぜ、ぞ、な(非命令)、か(疑問)

・「女性的」な終助詞:の(非疑問)、よ、ね、かな

・調査対象:本研究で集計した終助詞に集計数20以上の該当が見られる中学生プレイヤー+桜乃・朋香・杏

・調査人数:42人*10*11

 

終助詞について、集計した中で「男性的」「女性的」傾向が強いものを同数抜粋しました。調査対象を上記の絞り方にしたのは、ある程度のサンプルがないと偏り*12が出るからです。

以下が抜粋した項目を元にした散布表です。
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(一応拡大したら全員分の名前も確認できるはずです。)

斜めに走る線が「男性的」「女性的」のちょうど真ん中です。この線から遠く、縦軸・横軸に近いほど終助詞における「男性的」「女性的」傾向が強いということになります。手塚くんはかなり「男性的」に寄っていますね。

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上記の表で、手塚くんと比率が近い(つまり男性比が強い)キャラクターを抜粋しています。この4人と内訳を比較してみます。

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見た感じ、一定の傾向は見られないかと思います。真田*13と柳は比較的手塚くんと似た印象を受けますが、ジャッカルとバネさんは手塚くんと全く違うしバラバラです。

「男性的」な話し方をするから「ぜ」を使用するといった傾向は見られないと言えます。

 

(参考)

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*こちらの話は参考程度に聞いてください。

「ぜ」の使用数が多いキャラクターを見ると、音変化の回数も多いことが分かります。手塚くんは「テニスの王子様」全42巻中、一度も音変化を用いたことがありません。逆説的に、「手塚国光は音変化を使用していないため、"ぜ"を使用するキャラクターらしくない」と言えるのかもしれません。明確に主張できなくて申し訳ありませんが、「”ぜ”は手塚くんらしくない」を補強する一要素くらいにはなるかな~と思って説明させていただきました。*14

 

▷▷仮説②の検証:過去との比較

ここまでの検証で、手塚くんの口調として「ぜ」がイレギュラーであり、「手塚国光らしくない」口調であるということが分かりました。では、逆に何故、原作では「ぜ」を使用しているのでしょうか?

以下は、中学1年時の手塚くんが使用した終助詞を中学3年時の手塚くんと比較した表です。

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「だ」は中3時にも頻繁に使用していましたが、「ぜ」は先述した通り1回のみ、「かな」に至っては中3時には一度も使用していません。中1から中3の間で、手塚くんの言葉遣いが変化していることが分かります。

また、中学1年時の手塚くんが「ぜ」を使用したのは、大石との会話で青学全国制覇の目標を口にした場面です。

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許斐剛テニスの王子様』17巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、115頁

この中学1年時の回想は、大石が手塚くんの肘の怪我の理由を説明する場面で出てきます。「決着をつけようぜ」も跡部様との試合で肘の怪我が再発した場面で出た台詞です。
手塚くんが跡部様との勝負に際し「決着をつけようぜ」と”手塚国光らしくない”口調で宣言したのは、1年時に大石と誓った青学全国制覇への気持ちが蘇り、言葉遣いが当時に戻ったからではないでしょうか。

 

▷結論

「ぜ」という言葉遣いは、原作の時間軸では「決着をつけようぜ」以外では出現しておらず、手塚くんの口調としてはイレギュラーで違和感のあるものと言えます。そのため、OVAでは「手塚国光らしくない」として修正されたのでしょう。

では何故原作では「ぜ」を使用しているのか。その理由として、肘の痛みと共に青学全国制覇を誓った中学1年時の気持ちが蘇り、言葉遣いが当時に回帰したためである、と結論付けます。

以上、長々とお付き合いいただきありがとうございました。

 

▷参考文献

許斐剛テニスの王子様』全42巻、集英社、1999〜2008

金水敏ヴァーチャル日本語 役割語の謎』、岩波書店、2003

金水敏役割語研究の展開』、くろしお出版、2007

金水敏『<役割語>小辞典』、研究社、2014

佐々木瑞枝(監修)・日本語とジェンダー学会(編集)『日本語とジェンダー』、ひつじ書房、2006

 

*1:そういうイメージでしたが、当該のシーンが収録されていたのは18巻/全42巻だったので、割と中期でした。

*2:アニメに関しては2019年2月26日現在、Amazonプライムで見られるので興味がある方は確認してみてください。本研究のシーンはエピソード67「最後の一球」で見られます。真田、柳、赤也が試合を観戦しているんですが、立海のカラーが決まってなかったのかジャージが赤だったりするのも味わい深いです。

*3:因みに、実写映画「テニスの王子様」では修正が行われていないそうです。ミュも1st夏冬、2nd、3rdすべてで原作通りの台詞が使用されているそうです。

*4:詳しい方は諸々「そうじゃなくない?」「そこは後年の著書でちょっと変化したくない?」という部分もあるかと思いますが、今回の研究ではそういう感じで使われてるんだな~と思っておいてください。

*5:以下の条件を使用しています。

・方言者は除外。

・同一キャラクターでも回想で1年以上の前の描写があった場合は別枠で集計した(「手塚(過去)」という感じ)。タカさんもバーニングモードは別で集計してある。

・複数人が同コマにいるなどで明確に発言者が分からないものは除外。
・敬語は終助詞が限定されるので除外。(「そうですね」とは言っても「そうですな」とは基本言わない、「そうだね」と言わないキャラクターでも「そうですね」ならば言う、等。)
・方言も除外したが、標準語訳がついているものに関しては集計した。(比嘉中はカッコで標準語訳がついていたので)
・イリュージョンや物マネは調査対象外とし、マネした方された方どちらの集計にも入れていない。
・発言とモノローグも分けて集計したが、その差による特筆すべき特徴はなかったので最終的にまとめている。

*6:手塚,手塚(過去),越前,大石,大石(過去),不二周助,菊丸,菊丸(過去),河村,河村(バーニング),乾,乾(過去),桃城,海堂,堀尾,加藤,水野,荒井,池田,林,桜乃,朋香,跡部,忍足侑士,芥川,向日,宍戸,鳳,樺地,日吉,滝,幸村,真田,柳,柳(過去),丸井,桑原,仁王,柳生,切原,千石,亜久津,南,東方,室町,新渡戸,喜多,壇,橘桔平,伊武,神尾,石田鉄,桜井,内村,森,橘杏,葵,佐伯,黒羽,天根,樹,木更津亮,首藤,福士,堂本,鈴木,田代,伊藤,山之内,木手,甲斐,田仁志,平古場,知念,不知火,新垣,白石,遠山,千歳,石田銀,忍足謙也,金色,一氏,小石川,財前,観月,不二裕太,赤澤,木更津淳,柳沢,金田,野村,季楽,北村,高瀬,源,羽生,昆川,津多,九鬼

(↑ネームドキャラだけど省いてしまっているのもいます……。集計項目には引っかからないキャラクターなので研究への影響はないですが、ファンの人ごめんなさい。)

*7:手塚,手塚(過去),越前,大石,大石(過去),不二周助,菊丸,菊丸(過去),河村,河村(バーニング),乾,乾(過去),桃城,海堂,堀尾,加藤,水野,荒井,池田,林,桜乃,朋香,跡部,忍足侑士,芥川,向日,宍戸,鳳,日吉,幸村,真田,柳,柳(過去),丸井,桑原,仁王,柳生,切原,千石,亜久津,南,東方,室町,喜多,壇,橘桔平,伊武,神尾,石田鉄,桜井,内村,森,橘杏,葵,佐伯,黒羽,天根,樹,木更津亮,首藤,福士,堂本,鈴木,田代,木手,甲斐,田仁志,平古場,知念,観月,不二裕太,赤澤,木更津淳,柳沢,金田,野村,季楽,北村,高瀬,源,羽生,九鬼

*8:以下の4か所。

・3巻「放せよ」
・17巻「遠慮するなよ」
・33巻「あまり調子に乗るなよ」
・41巻「無茶はするなよ」

*9:命令表現については「どこまでを命令と取るのか?」で悩んだため違うルールで取ったらもう少し違う結果になるかもと思います。「~してくれ」を命令と取るか?とか(今回の集計では省いています)。

*10:手塚,越前,大石,不二周助,菊丸,河村,河村(バ),乾,桃城,海堂,堀尾,加藤,水野,荒井,跡部,芥川,向日,宍戸,日吉,幸村,真田,柳,丸井,桑原,切原,千石,亜久津,橘,伊武,神尾,佐伯,黒羽,福士,木手,甲斐,平古場,観月,不二裕太,赤澤,桜乃,朋香,杏

*11:研究要旨では人数を39人としていたのですが、それは女の子たちを省いていたからです。発表でも言い忘れていました。要旨を購入された方すみません。比較内容的にやっぱり女の子も入れたほうがいいと思いますので入れます。

*12:例えば、首藤は集計に引っかかったのが全項目中で「ぜ」1回のみなので、データの上では語尾を「ぜ」としか喋らないキャラクターになってしまいます。

*13:真田の言葉遣いにおける特徴は手塚くんと非常に似ており、男女で絞っていない場合でも終助詞の内訳に類似が見られます。

*14:参考程度に聞いてほしいと言った理由は、表に乗せたキャラクター以下の順位になると音変化との相関にばらつきが出てくるからです。また、回数でなく割合順位付けした場合も相関関係にばらつきが出るため、根拠にするには微妙です。本当に参考程度ということで……。