人生と現実と未来(『さらざんまい』最終話感想)
さら最終話、良かっっっっっったですね………………。
悠の笑顔が良かった。本当に良かった。悠のあの笑顔を十二分に味わうためにこの土日でもう一度最初から最後まで通して見ました。良かった、本当に。
正直それまでの話の中で噛み砕けていない部分はあるし、さらざんまいで繋がることの暴力性は肯定できないし、アナルからピンクの粘液を噴き出す表現などはグロテスクだなとずっと感じていますが、とにかく最終話が本当に「上手い」コンテンツで、メッセージが力強く厳しくも爽やかで、良かった……。
最終話のメッセージ、「この世界で生きていくこと」の肯定とエンパワーメントだったと思っています。
わたしは久慈悠が自らの罪を社会的な枠組みの元に償えたことがめちゃくちゃ救いだと思っていて、つまりその行為そのものが外界とのつながりなわけじゃないですか……。
これは個人的な意見ですが、本来なら兄との決別も悠自身の決断により行われるべきものだったと思っていて、その話自体の強度は別として、彼は自分の意思で兄の元を離れるべきだったし、そう出来なかったことに正直に言って少しガッカリした部分があります。*1
しかし、兄との決別が一種過剰なほどドラマティックな銃撃戦と死によってもたらされたからこそ、悠が少年院という現実的で地に足の着いた贖罪を行ったことが本当に嬉しかったし、それが彼自身を救う行為だと感じました。あの3年間で全ての罪が精算できたわけではないし、きっと一生背負って苦しんでいくものだけど、それでも悠の救いになると思うので……。
未来の漏洩*2が苦しく困難に満ちていることも良かった。めでたしめでたしではないんですよね。あんな超常的な体験をして濃密な絆を結んだ3人だけど、人生は続いていくので、8皿みたいに傷つけたり疑ったり争ったりする日はまた来る。それでも、そこからまたつながりたいと望めば、そうすることは可能なんです。全てを断ち切って円の外側に行こうとした悠が「失いたくない」と叫んだように。切れたミサンガは結び直せば良い*3し、届けられなかったミサンガは届ければいい。未来は欲望をつなぐものだけが手にできる。
出所した悠が川に落ちるシーンについてもこの強調だと感じます。このシーンについては、どなたかが、これはかつてサッカーボールを捨てたシーンの再演で、悠は自分自身ひいては一稀と燕太とのつながりを捨てようとしていた、と仰っていたのを読みました。そこから考えると、「失ったものは戻らない。けど、それがどうした!」の直後、「取り戻さなきゃいけないものがある」のフレーズに乗せて一稀と燕太が悠を迎えに来るシーンは、「失ったものは取り戻せる」ということなのかなと思います。失ったと思っていてもつながってることはある。捨てたつもりでも、望めば、あるいは望まれれば、取り戻せるかもしれない。*4そこで全てが終わりではないんですよね。その後3人が水面を目指して泳ぐ画面が、黒ケッピ戦後に「それでも、僕たちは」で河童姿の3人が水面を目指して泳ぐシーンと同じ絵面で重ねてあることからもそれが読み取れます。つまり、円の外からの帰還です。だから水面に出てからの「おかえり」なんですね。
また、「失ったものは戻らない。けど、それがどうした!」は一稀が尻子玉を渡して春河の命を助けて足の怪我をなかったことにしようとした行為へのアンサーになるとも思っています。現実として、大抵の行為は「なかったことに」はならないわけじゃないですか。辛くても苦しくても、そこからどうにかするしかない。生きて耐え抜いて行くしかない。死は強制的な断絶だし、現実には超常パワーはない。だから、悠が社会的規範に則って裁かれたことは、悠に対する救済でもあったし、「わたしたち」に対する優しさだったと思います。
それと、最終話はとにかく演出と構成が素晴らしくて、それが「良かったなあ」を最大限に高めていると思います。コンテンツとしての強度がとにかく高かった。
強度の話はここらへんです。(勢い重視でふわふわした話なのと誤字ってるのは見逃して)
さら最終話、今までのサブタイトルが作中で全部出てきて意味を持つ、OPEDが特別仕様の上最終話独自の文脈が乗って今までと違った意味になる、劇中歌がアレンジされてメドレーになる、とかやってるので見て
— るく (@looken_33) 2019年6月21日
いやマジで最終話を前にして人数がどんどん減っていくEDから最終話であれがこうなってOPの笑顔で肩を組む3人っに繋がるっていう大逆転本当に本当に本当に上手くて完璧にしてやられた ありがとう、いつでもこんなふうにコンテンツに膝を砕かれたい
— るく (@looken_33) 2019年6月21日
最後「何もかもを取っ払ってしまいたい」で鉄格子から外を眺める久慈悠…… 何この強度……
— るく (@looken_33) 2019年6月21日
コンテンツとしての強度とメッセージ性がどちらも揃っているというのは実は得がたいことだと思います。素敵なものを受け取ることができて嬉しかったです。ありがとうございました。
追記
レオマブが光となって一稀たちの暗闇を照らすのも良かったですね。光になったんだよ! レオマブが! 何で復活したのかとかはわたしには全然分からないのですが、でもとにかくあのレオマブが、二人で手を取り合って光になったんですよ……。こんなに素敵なことがある……? 良かったよ、良かった。ありがとう。