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5年越しの約束、あるいは''I want to meet again''(テニミュ3rd全国立海前編に寄せて)

2019年7月11日、ミュージカル『テニスの王子様』全国大会 青学vs立海 前編が開幕した。

公演終了後、Twitter上でレポが回ってきた。興奮した観劇者たちのざわざわとした感想が流れていく。その中に、こんなツイートがあった。

「まさかあの曲が使われるなんて」「アンコ曲マジ?」「2ndのおたくやばいよ」

 

わたしの観劇予定日はまだ先だったが、元々地方住みで、レポが回りきった後に観劇することに慣れていたこともあり、さしたる逡巡もなくセットリストを検索した。

まとめられたセットリストの1番最後、アンコール曲に、『頑張れ負けるな必ず勝て』が入っていた。

 

『頑張れ負けるな必ず勝て』(以下GMKK)は、テニミュ2ndシーズンの全国立海公演から使われた曲だ。通常、アンコール曲は複数公演を通して使われるものだが、本公演でこの曲が使われたのは全国立海公演のみ*1だった。タイトルの通りストレートにプレイヤーを鼓舞する良曲で、「軋むテニスシューズの音を覚えていてね」*2という公演と試合を二重写しにした歌詞と相まって、個人的には2ndで1,2を争うくらい好きな曲である。2ndの全国立海が2014年だったため、5年振りの楽曲復活ということになる。元々GMKKのような名曲が1公演使われただけで終わったことを口惜しく思っていたため、今回の復活は非常に喜ばしかった。

 

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わたしの3rd全国立海前編公演初日は2019年7月13日だった。

その日のチケットは大変良席で、アリーナ前方一桁代の段差列、ほぼ中央の位置だった。視界を遮るものは何もなく、数メートルの距離にキャラクターたちが立っている。公演の間中、自らの頭上に位置する演者を夢中で見上げていた。歌も言葉も光も「上」から降り注いでくる。光を背負ってステージに立つキャラクターたちを見上げると、それだけで胸が詰まって神聖な気持ちになった。

公演自体もとても良かった。個人的に、3rdで1番好きな公演かもしれないとまで思った。特に終盤の構成が良く、クライマックスからノンストップで畳み掛けてくる曲たちにくらくらした。

そして、その興奮のままアンコール曲が始まる。

前奏が流れた時点で「これはすごいことだ」と分かった。自分である程度は予想していたことだが、感情が大きすぎて処理できなかった。肩が勝手に震えて喉の奥がひくついた。5年前の記憶が蘇る。もう過ぎ去ってしまったもの、二度と観ることができないと思っていたものが目の前のステージに重なって現れて、視界がチカチカした。

 

「軋むテニスシューズの音を覚えていてね」

 

それは、2014年に交わした約束だった。少なくともわたしは約束をしたと思っている。「覚えていてね」と歌われて、「ずっと覚えているよ」と思った。覚えていた。5年間覚えていて、3rdに通っていた。そうしたら、2019年にまた会えたのだ。5年越しの約束が達成された気分だった。

GMKKはそのまま3rdのアンコール曲である『スマイル・アンド・ティアズ』に繋がった。多幸感をそのまま楽曲にしたらこうなるのだろうな、という曲だ。ステージの上で、キャラクターたちがキラキラの笑顔で、''l want to meet again''と歌う。これが「覚えていてね」と繋がっていることで発生する意味合いに胸がいっぱいになってしまう。ステージから浴びるキラキラを抱えきれなくなって、また肩が震えた。

 

そもそも、againという言葉自体、非常に「テニミュ的」だ。

ミュージカル『テニスの王子様』は巡る物語である。現在3rdシーズン、3巡目。話は巡る。キャストは代わる。同じ場面を違う歌で、あるいは、同じ話/歌/ダンスを、違う人間で繰り返す。桃城は南次郎になり、謙也はオサムになる。*3 さまざまな物事が、繰り返して、変わって、続いていく。

 

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GMKKを見て思い出したことがある。

わたしは七代目青学が好きだ。3rdに移行して数年経ったある日、急に「もう七代目を見ることは出来ないのだ」という事実に耐えられなくなり、同じく七代目好きを公言している人にメッセージを送った。その人は「私も、死ぬ前の走馬灯でLet's get it on togetherを見るんだろうと思っています」と答えてくれた。寂しい人間は自分だけではないと慰められた。

今回の公演を観てその言葉を思い出し、以前はあまり気に留めなかった「走馬灯で七代目に会える」という言葉がストンと胸に落ちた。わたしももしかしたら、死ぬ前に七代目の走馬灯を見るのかもしれない。それは嬉しいことだと思えた。GMKKを再び観ることができたように、きっと、いつかの人生でまた彼らに会える。未来が繋がったような気持ちになった。

永遠に終わらないものはない。同じ公演でも舞台は毎日違うように、キャストに卒業があるように、テニミュもいつかは終わってしまう。それは悲しいことだけれど、終わったあとに残るものも続くものもあるのだと、そう信じられるようになった。またこうやって、どこかでかつての何かの片鱗と出会えることがあるのだろう。それはきっと、いつかのわたしを救ってくれる。

 

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2014年、わたしは確かに約束をした。それは5年後の2019年に果たされて、その瞬間にまた同じ約束をした。

「軋むテニスシューズの音を覚えていてね」

覚えているよ。いつでも覚えているから、これから先も通うから、終わってもずっと好きだから、だから、また会おうね。

 

取り敢えずは、続くものとしてのテニミュ4thの決定と、巡るものとしての榊太郎加藤和樹の起用、よろしくお願いします。

 


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*1:2nd全国立海は前後編に別れていなかったため、本当に1公演のみ

*2:テニミュは必ず「キュッ…パコッ…」というテニスシューズの軋みとボールを打ち返すSEで幕が上がる

*3:1stで桃城役を演じた森山栄治さんは2ndの越前南次郎役を演じ、2ndで忍足謙也役を演じた碕理人さんは3rdで渡邊オサム役を演じた。