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『テニスの王子様』全42巻の語尾集計おまけ -「テニスの王子様研究発表会」番外

以前、「テニスの王子様」全42巻分を対象に、キャラクターの語尾を調査する研究をおこないました。

lookmusical.hatenablog.com

上記ブログでは、「研究」という名目上テーマを絞って横道に逸れないように書いたのですが、集計しながら研究対象以外でも意外に思ったことや面白く感じたことなどがあったので、折角なのでまとめてみます。わたしが感じたことのゆる〜いまとめです。
当時から書く書く言っていたのに発表から2年半経ってしまいました。許せサスケ……。


▷主人公・リョーマ

lookmusical.hatenablog.com

先日上記のブログでも書きましたが、リョーマはほんっとうに話し方が柔らかいです。個人的に、リョーマと言えば「生意気」というイメージがあったのですが、言語だけ見ると作中のキャラクターでは群を抜いて丁寧な喋り方をしています。

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許斐剛テニスの王子様』35巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、74頁

「ふーんそうなの」とか言うんですよ。やわらか~い。

参考に手塚国光と比較してみるとこんな感じになります。

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リョーマの生意気さはイコール慇懃無礼さなんですよね。命令形も全然なくて、指示表現は確認型の方が多いです。(「俺にもテニス教えてくれない?」等)
丁寧で柔らかい。いい子だね〜。
ただし、音変化(「っす」とかのことです)の使用数はたいへん多く、全キャラ中でも2位です。音変化使用回数1位である桃ちゃん先輩もですが、ここらへんは後輩キャラで敬語表現が多くなりがちだというのも関係してますね。

(参考*1
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あと、着目すべき点として、神尾の「リズムに乗るぜ♪」を「リズムに乗ってきたよ♪」と言い替えて発言しています。

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許斐剛テニスの王子様』5巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、22頁

相手の口調を真似する際でも、そのまま持ってこずに自分の表現にしています。ここで、許斐先生は作中でキャラクターごとの言語を厳密に統一しているということが分かり、「『テニスの王子様』は役割語的な観点でキャラクターを描写している」という自分の研究の根拠にもなりました。

▷赤澤のしゃべりがアーバン

これはファンの方に怒られてしまうかもしれませんが、わたしの中で赤澤って結構粗野なイメージでした。金田とギスギスしていた印象が強かったので……。
しかし、集計してみると、「ぜ」とか「さ」を使っていて、トレンディーでアーバン! さすが湘南サーファーです(ビジュアルによる偏見失礼します)。

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許斐剛テニスの王子様』7巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、154頁

因みに、「さ」の使用数が最も多いのは乾先輩で、「ぜ」は桃ちゃん先輩です。

▷仁王と柳生は「土佐弁」と「書生言葉」なので分類的には男言葉

集計表の画像を上げた時のマシュマロで、「仁王と柳生は集計数が少なくて、特殊な話し方なんですね」と言っていただきました(2年半前……)(すみません!)
これは仰る通りで、立海メンバーの中で終助詞/命令表現/音変化の数を総合すると、仁王と柳生の2人が最も使用数が低い*2です。「入れ替わり時の発言は集計に含めない」「敬語は集計に含めない」等のルールがあったので、そのあたりも影響しています。

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因みに、仁王の言葉遣いは「土佐弁」、柳生の言葉遣いは「書生言葉」に近い印象です(仁王はちゃんぽんだけど)。「土佐弁」「書生言葉」どちらも役割語的には「男性言葉」に分類される(はず……たぶん……*3)ものです。
実は研究の構想段階で、男性的・女性的な言語の比率を学校ごとでまとめて分類したいな~と思って結局上手くやれなさそうでやめにしたのですが、これをやっていたら仁王・柳生は立海の「男性的」ポイントを上げていただろうなと思います。

▷タカさんはバーニング状態でもモノローグでは基本的に平時の喋り方(例外あり)

集計段階では、各キャラクターの発言とモノローグを分けてカウントしていました。もしかしたら発言とモノローグで差異が出たりすることもあるかなと予想したからですが、最終的には特に差異はなさそうだったのでまとめています。
ただ、タカさんだけはちょっと興味深かったのでここで言及いたします。

タカさんは通常とバーニング状態で明らかに言葉遣いが違うのでそれぞれ分けて集計していました。
集計して気づいたこととして、タカさんはバーニング状態にあってもモノローグでは基本的に普段と同じ喋り方をしています。

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許斐武『テニスの王子様』16巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、89頁

一方、一部ではモノローグもバーニングになっています。
タカさんの試合を見てざっくりモノローグの口調を確認したところ以下のようになりました。

不動峰戦:モノローグなし
・関東氷帝戦:一部バーニング(「アンビリーバボーあのカバ僧が波動球だと!?」)
・六角戦:非試合時と同じ
・比嘉戦:非試合時と同じ
・四天戦:一部バーニング(「ドントギブアップ」)

ただし、モノローグ以外でも、ラケットを握っていてもバーニングになっていない時もある*4ので、境界は相互に曖昧なのかもしれません。ここらへんの話は「そもそもバーニングとは何なのか?」というところから詰めていくことになるのでしょうか。タカさんの専門家にお話を聞きたいですね。

 

▷段々口調が礼儀正しくなる長太郎

鳳長太郎の初期の言葉遣いは「運動部の後輩」です。

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許斐武『テニスの王子様』16巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、102頁

「おっといけね」!?!?

鳳長太郎といえば「紅茶、ピアノ、お母さん手作りのマドレーヌ」みたいなイメージなので(パブリックイメージとは乖離がある可能性があります)面食らいました。
鳳の音変化(「~っす!」系)の使用数は全部で9例あり、具体的な出現位置は14巻1回、15巻4回、16巻3回、25巻1回です。全国大会に入ってからは完全にイメージ通りの礼儀正しさになりました。

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許斐武『テニスの王子様』34巻、集英社、2003(デジタル版:2012)、32頁

イキリ期が終わったのかもしれませんね。

▷おまけ:テニスの王子様はテンポがいい

調査とは関係ない話になりますが、漫画を一気読みして感じたのは「『テニスの王子様』ってメチャクチャテンポが良いな」ということでした。最終試合の全国立海戦ですら3巻半くらいで終わっている! だいたいのバトルもの(この場合スポーツも含みます)ではクライマックスに向け盛り上がるにつれて描写も長引いていくものですが、『テニスの王子様』では潔いくらいにサクサクと進んでいきます。それでいてバッチリ満足感もあるので素晴らしい。
つまり、名作ってコト……かな!

 

*1:後輩キャラの中に食い込む跡部様、さすがですわね……

*2:丸井も低いですが、これは「だろぃ」の扱いに困って、「だろ」にも音変化にも集計しなかったからだったと思います。もう記憶があんまりない。

*3:確か、金水敏著『役割語小辞典』あたりで見かけたように記憶しています

*4:例:無印39巻116頁、試合開始時に石田銀に向かって「やってみなきゃ分からないよ」