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日本キャスト版『アナスタシア』感想

本日は宝塚版『アナスタシア』の初日だったそうですね! おめでとうございます。

ということで、2020年3月に観て以来いつか感想を書くぞ〜と思っていたブロードウェイ発日本キャスト版『アナスタシア』の感想をやっとまとめました。

ブロードウェイ版『アナスタシア』は1997年に20世紀フォックス(よく誤解されるけどディズニーじゃないんだよ*1)が作成したアニメーション映画を原作として、2017〜2019年にブロードウェイで上演された作品です。

本記事はその日本キャスト版の感想になります。
幼少期から大好きなアニメーション映画版と、2018年に観に行ったブロードウェイ版についての感想を混ぜつつ、日本版について書き留めておきます。ブロードウェイ版はあんまりストーリーをちゃんと追えてなかったので、話としては初見みたいな感じです。

ブロードウェイで観た時の感想はここで触れてます。
lookmusical.hatenablog.com


元々は海宝さんのディミトリを狙っていたんですが感染症の影響で大幅に公演が減ったため観ることが叶わず、内海と相葉ちゃんの2バージョン観ました。アーニャはどちらも葵わかなちゃん。

その他の出演者はこうです。
↓1回目

↓2回目

座席は1回目は20列あたりの正面。前後左右の座席がおそらく払い戻しで空いていました。2回目はもう少し前方でサイドよりでした。こっちもまあまあ空いてました。見やすいけど寂しかったです。

話は、映画版では悪の魔法使いラスプーチンヴィランのファンタジーなわけですが、舞台では軍部のグレブを敵かつ第2ヒーローとしており、社会的要素が増えています。舞台化って感じですね。

前半はイマイチ乗り切れないというか、妙に音が遠く聞こえて体に響かない感じがしました。オーブの音響のせいかな。
でも後半は好きでした。

感想ハイライト

内容について、気になったところだけ抜粋して書きます。

・父殺しと棺
お話は、最終的にグレブの父殺し(概念)により落着となります。う~ん舞台化。
このクライマックスのグレブがアナスタシアに銃を向けるシーンで背景に棺が出るんですけど、あれは誰の棺なのかというのが若干疑問です。
ストレートに皇帝の棺なのかな~と思うけど、あのシーンでグレブの父は皇帝を撃ってるんでしたっけ? 王妃はそのまま軍服とすれ違っていたのを観たんだけど、皇帝がどうだったかは見逃しちゃったんですよね。
「私は父の息子ではなかったということだ」の台詞で棺が担ぎ上げられるので、父の息子としてのグレブの棺なのかもしれません。
宝塚版で確認できるかな。

・ドレスと笑い
あとはディミトリが皇太后に詰め寄るシーンで皇太后のドレスの裾を踏んで動きを止めるというくだりがあり、2回観て2回ともそこで笑いが起こっていたので、笑うシーンじゃなくない!?キンキーブーツでチャーリーがみんなの前でローラをサイモンって呼んだ場面並みに息を飲むところでは!?と個人的に思いました。間の取り方も笑うシーンとしての設定じゃないと感じたし、めちゃくちゃ緊迫したシーンでしょ~と思う。本当のところは分かりませんが……。

キャストの話

役者については、何と言っても内海啓貴が予想よりすご〜く良かったです。このまますくすく成長して立派な帝劇俳優として大成してほしいと思いました。 歌が上手くて声が良くてチャーミング!
葵わかなちゃんと並ぶと少女漫画的な大変かわいらしく魅力的なカップルになって、映画版ともブロードウェイ版とも違うキラキラ感が出ててすご~~~く好きでしたね。
ばっちとわかなちゃんの組み合わせも観て、ばっちもかっこいいし身体に厚みが出て歌うまくなってて良かったんだけど、やっぱりあきよしとわかなちゃんが可愛かったですね。キュートでした。推しカプです。

グレブとアーニャに関してはまったくロマンスの香りがしなくて、カップルではなく同士だな~というのが2回通しての感想でした。役者が違ったらまた違うのかもしれないけど。
グレブは1回目観たときはよく分からないな~と思って、それで2回目観に行ったところもあるんですけど、2回観てもやっぱりよく分かりませんでした。
ただ1回目に観た時は、堂珍さんは歌は上手いけどミュージカル的な台詞としての歌表現がもうちょっと立ってると嬉しいかなと思ったのですが、2回目遠山さんで観たらそもそもグレブの歌が難しいんだな?と思いました。歌いづらく聞き取りづらい歌詞をしていますね。

ヴラドとリリーのカップルは石川さんとマルシアさんの組み合わせが好きでした。
石川ヴラドの優しくキュートなところと、マルシアリリーの小柄で働き者っぽい雰囲気がいかにもコミカルでキャラクターっぽくて良かったですね。
逆に大澄ヴラドは優しいだけじゃない策略家っぽい感じが地に足ついており、朝海リリーは長身の成熟した雰囲気で、2人並ぶといかにも過去に関係を持った大人カップルの実在性がありました。こっちが好きな人もいるだろうなと思います。

曲の良さ

これはブロードウェイ版含めた感想になりますが、舞台になっても曲がいい!
わたしの推し曲である「Once Upon a December」や「A Rumor in St.Petersburg」「Journey to the past」「Learn to Do It」「Paris Holds the Key To Your Heart」を舞台で聞けるのはたいへん嬉しかったです。
「Paris Holds the Key To Your Heart」はそれまでのロシアや旅の道中からパリの華やかな街並みへとガラっと雰囲気が変わり、衣装もかわいくて素敵でしたね。
「Journey to the past」は映画と舞台で使われ方が違って、映画版だと孤児院を出たアーニャが自分の家族を探すためにサンクトペテルブルクを目指す「旅」で使われるんですけど、舞台版だとディミトリたちと共にパリを目指す「旅」を指して使われています。なるほどここに使ってくるんだな~と興味深く聞きました。

舞台版で追加されて好きになった曲もあります。
リリーたち亡命貴族の「Land of Yesterday」とか大変好きですね。基本的にミュージカルにおける酒場の曲はハズレなしのアガるナンバーだし、これで後半のギアがかかったところは多分にあると思います。加えて、ここで貴族たちの退屈と衰退が華々しく空虚に歌われていることでサンクトペテルブルクの貧しさや軍部の暗さとの対比になっており、そのあたりも良かったです。
あとは「Quartet at the Ballet」もすごく好きな曲で、これがおそらくフィナーレ以外で唯一ディミトリとグレブが声を重ねて歌うシーンになるので、そういう意味でもたいへんエモいです。

因みにブロードウェイ版のアルバムはSpotifyで聞けます。
Anastasia (Original Broadway Cast Recording) - Compilation by Various Artists | Spotify

逆になくなってて悲しかったのは「In the Dark of the Night」。これは映画版の敵であるラスプーチンの持ち歌なので舞台版でなくなるのは当然なんですけど(出てこないので)、好きな曲だからやっぱり舞台で聞けなかったのは悲しいです。
フォックスがYoutubeに映画のシーン込みで上げてくれてるので、舞台しか観てない人も良かったら聞いてみてね。
youtu.be

映画版との差異

お話は、全体的に変更点によって映画より説得力が落ちている感じがしたかなという印象です。単にわたしが映画派なだけかもしれないけど……。
具体的にどのあたりかと言うと、映画だとアーニャがアナスタシアの肖像画の前で振り返ったことにより顔がそっくり(同一人物なんですが)なことに気づいたディミトリたちがこの子をアナスタシアにしようと決めるんですけど、舞台では特にそういうのなく何となく流れで替え玉にすることになってましたね。
あとオルゴールも、映画ではディミトリがアーニャと皇太后革命の日に逃がして、アーニャが落としていったオルゴールを代わりに拾うわけですが、舞台版ではたまたま(!)買ったただけ(!)になっており、マジで詐欺師の小道具じゃんという気持ちになりました。
そう、今述べた通り、映画版だと革命の日にディミトリが皇太后とアナスタシアを救うキーパーソンとして働いて、それが全体的な説得力(今は詐欺師をやっているけど心根は素晴らしい青年)となっていたわけですが、その設定が舞台だと丸々ないんですよね。社会派にしたことによって物語っぽい運命感を差し引きしたのかな~と思いました。たしかに運命じゃない恋も嫌いじゃないけど。
あと詐欺師と言えば、舞台版だとアーニャが記憶を思い出すのが皇太后に会う前なので、皇太后との二者面談のときに「私を信じてくださったらがっかりさせません」とか一生懸命言っててメッチャ詐欺師っぽいなと思いました。映画版だと皇太后と話した後に思い出すのでこの時点ではまだ「私も自分が何者か知りたいと思っています」くらいです。
加えて、映画版ではオルゴールを開ける鍵がアーニャが持っているネックレスであり、これが物的証拠として機能することでアーニャがアナスタシアであると証明できるんですよね。ただ舞台の場合はネックレスだと舞台上から客席に見えないのでそこらへんは仕方がないのかなと思いました。
でもそもそもオルゴールについても映画版では見た目はジュエリーボックスだけどアーニャだけが最初から「ジュエリーボックスじゃないんじゃないか?」と気づいたりして(拾ったディミトリも知らないのです)、そういう細かいところで「実はアナスタシアである」の精度を積み上げていたんだけど、舞台版ではそれもなかったので、何か全体的に……実は詐欺師だったらどうするの!?という気持ちになりました。いや本物だから良いんだけど。

(2020年11月14日追記)
宝塚版を観た人の感想を読んでちょっと見方が変わったので追記しておきます。


(追記終わり)


あとちょっと不思議だったのは映画ではソフィーだったキャラの名前がリリーに変更になっていたことです。役どころは変わらないのに。史実準拠とかでしょうか?

ワーッと不満点言っちゃいましたけど、舞台版の変更で良かったのは「史実を元にしたフィクション」であることが浮き上がったことです。
アナスタシアというタイトルの時点で当たり前やんという感じなんですが、お恥ずかしながら今まではファンタジーとしての側面にフォーカスしてたのかあんまり史実のこと考えて観てなかったんですよね。幼少期からずっと好きな作品だというのもあるかもしれません。
舞台で、軍部の設定や、皇太后と皇后の不仲を匂わせる演技や、サンクトペテルブルクが革命後レニングラードと名前を改めた話などが盛り込まれたことで、実際の歴史の話が下敷きなんだよなと、めちゃくちゃ今更ですが実感しました。
ロシア革命のこと全然知らないのでお勉強したいですね。

日本キャスト版としての良さ

日本キャスト版アナスタシアの歌詞は映画の吹き替え版と違うんですけど(たぶん翻訳の著作権の問題)、知ってる曲が違う歌詞で歌われている違和感にノリ切れない一方で、かえって映画版とは別物だな~と距離を置けたので良かったかもと思います。
そうやって冷静になれたことで日本人が演じる親近感というか、身近なラブストーリーとして楽しめたところはありました。いや皇女の話に身近も何もないはずなんですけど、葵わかなちゃんも皇女アナスタシアというよりは家族を探す少女アーニャとしてのほうがしっくり来る部分があり、体感として青春キラキラ映画っぽかったです。

因みに、逆にブロードウェイで観たときは、ストーリーが違ってもあの曲を生で聞ける!の感動ですべてが帳消しになりました。それぞれに良いところがある。

次は宝塚版を観る予定なのでまた別の感想が出るんだろうなと楽しみです。
ちょっと前までは、宝塚版ではまた映画版みたいな魔法ファンタジーにしてくれないかな~とか言ってたんですけど、先日宝塚デビュー(『はいからさんが通る』です。これも書けたらブログにしたい)してから意見が変わり、「もしかして……宝塚版だとグレブとアーニャの組み合わせがめちゃくちゃロマンチック・カップルになるのでは!?」と思って期待しています。楽しみ!
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*1:と言っても2019年にフォックスがディズニー傘下になったので本当にディズニーになっちゃったんですけど